きんもくせい

秋の道を歩いているときんもくせいの甘い香りが入ってくることがある。その匂いをかぐと、懐かしい気持ちになるとともに、とてつもない不安のようなものに襲われる。小さい頃なにかあったのだろうか…それとも暗く寒くなっていく季節に恐れがあるからだろうか…小さい頃は福島に住んでいて、冬のひどく冷たく、重く立ち込めた雲とすぐにやってくる夜がとても嫌でこわかった。今も冬が近づいていることを感じさせる秋と、冬そのものは苦手だけれど、なにか違うことで紛らわすことを覚えたように思う。小さい頃は、ひとつのことに徹底的に向き合ってしまう性格だった。そんな冬の恐れを紛らわせるための一つの言葉で、大好きな言葉が、「冬来たりなば、春遠からじ」。実際の季節だけではなく、なにか嫌なことがあったり、落ち込んだときはなるべくこの言葉に触れて自分を鼓舞している。明けない夜はない!というありきたりと思える言葉も、だれかを救うかもしれない言葉のひとつなのだな。